こんばんは。ご無沙汰しております。
私がen・nichiのあるここ岩手で出会った食や暮らしをマイペースに紡ぎながら、その土地に住む事をおおいに楽しんでいる皆さんをご紹介しています。
今月ご紹介するのは、民話とどぶろくの里、岩手県遠野市にお住まいの「風土農園」伊勢崎まゆみさんです。
ご主人は遠野に代々続く農家の16代目で、「ササシグレ」というお米を作っています。
馴れ初め
まゆみさんと私とのご縁は、かれこれ8年ほど前に遡ります。
知り合ったきっかけは既に定かではないのですが、農業経験ゼロ、遠野に関東から嫁いで奮闘している同級生の彼女に親近感を持たずには居られませんでした。
それと同時に、彼女の中からフツフツと沸き起こる底知れぬパワーや、嫁いでからこつこつと身に付けている暮らしの中の知識や知恵に憧れ、尊敬の念を抱いたことを今でもはっきりと覚えています。
私が2014年から実行委員会を立上げ、北上のセントラルパーク「詩歌の森公園」で開催している町分マルシェには初回から出店してくれていて、彼女の代名詞でもある納豆キットや、生麹、味噌などの販売を行っています。
コロナ禍で今年のマルシェ開催を見送ったこともあり、年に一度会うきっかけが来年へ持ち越しとなりました。どうしているかなと気になっていた友人の一人でした。
県内に居ても、農業に従事している友人達とは年に一度か二度会うことがやっとで、その時を心待ちにしています。会った時に話したい事を溜め込んで過ごしている気がします。会えた時の喜びは例えようもなく、もっと話すべきことが沢山あるのだけど、結果どうでも良い話をしたり、会えたことで胸がいっぱいになりながら過ごす事の多い私です。
りんごのバトン
久しぶりに彼女の元を訪ねようと思った理由の一つは、彼女自身がりんごの栽培をはじめたと聞いたからでした。
50年以上もの間、遠野市内でりんごをはじめとする果樹を育てて来た90歳のフキさん。
その方から畑を引き継いだのが昨年のこと。
奇跡のりんごで有名な木村秋則さんの愛弟子の佐々木悦雄さんに弟子入りし、家事や子育てと両立して新たな一歩を歩み出した友人に一言激励の言葉をかけたい、そしてその目線の先にあるものを知りたいと思ったからでした。
悦雄さんからまゆみさんへの口説き文句である「俺の最初で最後の一番弟子にならないか」は、彼女が遠野にきて積み重ねてきた時間が色々化学変化して引き寄せたご縁。まさに遠野で頑張ると腹を決めた彼女の前に神様はそっとりんごを置きました。
今回、向い合わせで話す彼女のまあるい笑顔は真っ赤なりんごみたいだ、と気付きます。
話を聞き進めると、もう彼女は艶々に光る遠野紅玉に見えなくなりました。
りんごとまゆみさん、なんだかとてもお似合いです。
家を訪ねてさっそく、玄関では収穫した果物たちがお出迎えしてくれました。
花とともに、その時々の季節感が伝わる空間作り。田舎の歴史ある建物にあって、彼女のさりげない心遣いやセンスが光ります。なんでも、玄関先のにあるこの場所は同居する義母さんと奪い合いになる時もあるのだとか。私が訪れたその日は、まゆみさんが勝利した日の様でした。
キッチンが併設された居間に入ると、そこは黒い重厚感たっぷりの薪ストーブと家族の食卓がありました。
勧められるがままに食卓の椅子にこしをおろすと、正面にはキッチンの大きな窓。そこに広がるのは長閑な遠野の秋の風景でした。
忙しい最中、りんごのケーキを焼いて待っていてくれました。
りんごは、言わずもがな彼女の畑から採れたものでした。
ケーキと珈琲を頂きつつ、嫁いでから今までの話をゆっくりと伺いました。
はじまりはパラグライダー
29歳で遠野に嫁ぎ、今年で15年。
9歳の歩君を筆頭に、まゆみさんは3人の子ども達のお母さんになりました。
東京時代に働いていたアパレル会社の友人が帰郷し、遠野出身の方と結婚したのをきっかけに初めてこの地を訪れたまゆみさん。その当時、遠野でパラグライダーができると聞き、翌日タンデム(二人乗り)に乗せてもらいます。
空から山に囲まれた田園風景を見せてくれたその人が今のご主人である伊勢崎克彦さんでした。
まゆみさんはその風景と伊勢崎さんを忘れる事ができず、遠野で野菜づくりをして暮らすことを想い描き、東京と遠野、2拠点での暮らしが始まります。
複数の拠点を持ちながら仕事をし、暮らしを楽しみ、人と繋がり生きる事は、今でこそ当たり前の世の中となりましたが、15年以上前には先進的な事例であったことは言うまでもありません。
その行動力とがあったからこそ、彼女は遠野の代々続く農家に嫁ぎ、きっと想像もしていなかったりんごを作り始め、夫が作った米からできた麹を使いこなし、魅力的に私達に提案をしてくれます。
写真は上から時計周りに納豆麹、南蛮醤油麹、ピーマン麹。
全て彼女が、ササシグレの麹で作った調味料。
特に納豆麹は椎茸や人参が入っていて、それらのエキスがしっかり納豆と絡み、甘めで食べやすい仕上がりに。
ごはんに合う事、間違い無しです。太鼓判。
南蛮醤油麹は、豆腐や炒め物に混ぜても美味しく止まらない一品。ちょっとお酒が欲しくなってしまった私です。正直、ストックを切らさない様に購入するにはどうしたら良いか、と思うほど絶品の美味しさでした。
幻の米、ササシグレ
そもそも、夫の克彦さんが作っているお米「ササシグレ」ってなんでしょうか?
はい、そうですね。そこは大切でした。
実は有名な「ササニシキ」の親に当たる品種で、ササニシキをもってしても唯一食味だけは親であるササシグレを越えられなかったと言われているお米。
炊きあがりの香りが良く、冷めると甘みが増し、香りも素晴らしいお米です。
しかしながら、背丈が高いため倒伏しやすく、生産者が少ないために一般的にはあまり流通していないお米です。
そのお米を12年間、無農薬、無化学肥料、無施肥、天日干しで作り続けている夫の克彦さん。
その労力と精神力に頭が下がるばかりです。
親の代までは慣行農法でお米を栽培していた伊勢崎家。どういう経緯で今の様な形の農業に舵を切る事となったのでしょうか。
それはまゆみさんが遠野に来て1ヶ月ほど経った時。知り合いの家で偶然にも奇跡のりんごの木村秋則さんに出会います。
伊勢崎さんとまゆみさんはそこで自然栽培を知る事となり、その後ご主人は遠野にある馬と人が共生する暮らしをテーマに馬を通した様々な体験と有機農業を営む農業法人クィーンズメドウ・カントリーハウスで働き始めます。
自身の暮らす周りの環境の変化に疑問を持っていた克彦さんは、クィーンズメドウでの出会いや学び、木村さんの農法を通して、豊かな自然があって里山の暮らしがあること、その暮らしも守り続けられる農業がしたいと一念発起し、その年から伊勢崎家の田んぼを全て慣行栽培から自然栽培にしました。
これには克彦さんのご両親も大激怒。
それでも長い年月をかけ、自ら選び取った道を進む事で家族や地域の皆さんへその想いを伝え続けています。
写真はご主人の克彦さん。作業の時にen・nichiのSAPPAKAMAを愛用。
腰回りはゆったりと。かがんだり力んだり、お腹周りがゆったりとしていてあらゆる体勢でもとりやすいのです。
膝から足下にかけてはシェイプされ、足さばきも軽やかに。
東北食べる通信とCSA
ところで「CSA」という言葉を耳にした事があるでしょうか。
「Community Supprted Agriculture」の略称で「地域支援型農業」と呼ばれています。
これは消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業のシステムです。
会員になった消費者には収穫された農産物の他、農業体験が出来るなどの生産者と直接やりとりが可能になります。
生産者にとっては、安定的に収入を得る事が出来、消費者にとっては食育などにも役立たせることができ、相互にメリットがあります。欧米の都市部では広がりを見せており世界30カ国で取り組まれているそうです。
実は風土農園のお米は「東北食べる通信」というこだわりの生産者が作った食べ物の付録がついている情報誌が企画提案するCSAの取り組みに参加している生産者。
今まではその会員が収穫したお米の半量を購入し、残りを長い付き合いの定期購入のお客様が購入しているため、私たちが購入することがなかなかできませんでした。
昨年から少しづつ生産量が増えてきたこともあり、ポケットマルシェなどのネット販売にも出店しています。
今年から食べる通信のCSAという形が無くなることもあり、今後は直接販売や風土農園らしいCSAも模索中とのこと。まずは、その結果を楽しみに待つとします。
定期購入の方々へ送る荷物には、まゆみさんが作った野菜や調味料など季節の便りが同封されます。
CSAのシステムについては日本ではまだまだ足踏み状態な印象がありますが、特に家族経営の農家にとってはとても有効なやり方であることを今回あらためて考えさせられました。
家族時間サイコーの巻
話を元に戻します。
まゆみさんは遠野に嫁ぎ、その土地の古くからの慣習やしきたりに直面します。
都会で育ってきたまゆみさんにとっては、驚くことや悩むことも1つ2つでは無かったでしょう。
田舎ならではの人間関係もしかり。独特の距離感や、言葉にならない閉塞感があります。
まゆみさんは、様々な想いを経験し、考え抜き、行き着いたのがあらためて思う家族の大切さでした。
今、家族でいること、一緒に叶えて行く夢を計画する事が本当に楽しいと目を輝かせて話すまゆみさん。
時間をかけ、家族で協力しながら実現していくその夢は、家族の宝物となりひいては地域を照らすことになると思います。
風の様にこの地に舞い降りたまゆみさんは、まさに土地の人になりつつあります。
数年前に比べ、ここでやっていくのだという腹のくくり方が言葉にせずとも滲みでている様に感じました。
それは、彼女自身と家族や土地との大きなチューニングを数年かけて終えた様な、そんな爽快感すら感じました。
新しい場所、整う場所、光が降り注ぐ場所
夕方に、せっかくなのでということで引き継いだりんごの畑へ連れていってもらいました。
小高い丘の上に、そのりんご畑はありました。
眼下には川が流れ、町が小さく見えて、日常から離れた場所に来た様な気がしました。朝、子ども達を送り出してから、彼女は一人ここに立ちます。
彼女のりんご畑には、紅玉、遠野紅玉、王林、フジ等数種が栽培されています。師匠の悦雄さんの畑と隣接していて、サポート体勢も万全です。
まゆみさんの紅玉をいただき、食べさせてもらいました。酸味も甘みも本当に自然ですっと入って来る優しい味わいでした。
家業のお米とは別に、彼女がフキさんくらいの年になるまで寄り添い続けるりんごという対象ができたことは彼女にとっても大きな変化に違いないでしょう。私がハーブと出会ったのと時をほぼ同じくして、私達同級生はまたあらたな「楽しい課題」を手にしたことになります。
その行く末をこれからもお互いに応援し合い、長い時間かけながらその本質や、ここでの暮らし方を追求していくことができたら豊かな人生になるのではないかと思います。
彼女のりんごを食べてみたい方、こちらへ問い合わせてみてください。
instagram :「mayumi_fuudonouen」
facebook:「https://www.facebook.com/tonofuudo」
E-mail :fuudonouen@gmail.com
また、冬はポケットマルシェに販売することも増えるとのこと。
こちらもぜひチェックしてみてください。
https://poke-m.com/producers/13
一つ一つ、彼女が大切に岩手日報に包んでる姿が目に浮かびます。
きっとりんご以上の何か(モノではなくて)が詰まってくるはずです。
落ち着いたらぜひ、足を伸ばしてみるのも良いかもしれません。
紅玉に似たまあるい笑顔に会いに!