ただいまと言いたくなる場所、うたがき優命園を訪ねました。

2020.09.26

まず初めに。

仲間とともに「SUNDAY MORNING MARKET CARAVAN」という自然派の野菜やお米、花やハーブを直接消費者に販売する朝市を5年前から開催しています。

 

その仲間というには少々おこがましいのですが、岩手県奥州市江刺というところで足掛け29年も自給自足の暮らしをしている尊敬すべき家族がいます。

 

その台所を守り続けている河内山可奈さん。彼女にお話を伺いに、家族で営む「うたがき優命園」に伺いました。

 

うたがき優命園では、養鶏を軸に、合鴨農法でつくる3種類のお米、梅、桑、羊、そして周りを囲む山の恵みを自分たちの暮らしに上手に取り込み、どの季節に訪れてもその時々の土地の旬をさりげなく食卓に出してくれます。

ついつい心の中で「ただいま」と言ってしまう場所です。

 

生きる事は食べる事

家族はもちろん、彼らの元に集う学生、農家仲間、生活学校のメンバーなど、多くの関係者のお腹を満たし、心を満たし、食を通じて場の力を、生きる事への向き合い方を伝えてきた可奈さん。

河内山家の母ちゃんは、今でも夫である耕さんが作ってくれた自宅のキッチンで相棒である薪ストーブをコンロ代わりに、その日採れた食材を丁寧に、手際よく、料理に変えていきます。

 

薪ストーブは、鍋を載せる場所により、いわゆる火力が異なります。

蓋をあけて火に直接かけたり、網をかませて加熱を弱めたり…。

季節毎に適した薪の種類もあるのだそう。例えばナラや栗は硬い木で、ゆっくり燃えて消えにくいのでこれから訪れる寒い季節には適しており、逆に夏場は杉だと火力が一気に高まる上にすぐに燃え尽くしてしまうため家が温まりすぎなくて良いとか。

一般的な家庭の主婦はなかなか知り得ない、むしろアウトドアに繋がる知識ですね。

 

 

じゃん!

 

まず披露していただいたのは、養鶏農家ならではの究極の卵料理。黄身の味噌漬け

色の濃淡で状態が異なります。

白っぽい黄身は半生でトロッとしていて漬かり具合も浅め。息子の春樹君はこっち派だとか。

上写真左下のべっ甲の様に透き通った状態は漬けて4日目くらいのもの。コクがあって味はさながら生ウニのよう。こちらは、夫・耕さんのお気に入りです。

好みにも年季が関係するのかもしれませんね。晩酌のアテにもよさそうです。

 

 

そして日々の野菜を調達するのは、昨年から農園を継ぐことを決めた次男の春樹君。

主に自家消費用に作っている「キッチンガーデン」と呼ばれる畑部門を管理して、その日採れ頃な野菜をかごに収穫し、台所に届けます。

「こちら側からのリクエストは一切しないの!その日、春樹が何を採って来てくれるか分からないところがまた、楽しい」と可奈さん。息子がそろえてくれる野菜でつくる料理は、既に愛情という最高の味付けがされていたのでした。

 

この日も、私のために素敵なプレートを作ってくれました。

 

 

この日のメニューは、というと。

 

季節の野菜の煮浸し、きゅうりとミズの実の醤油麹と塩麹の漬物、ミニトマトのシロップ漬け、薪ストーブで作ったとは思えない美しくこげひとつない卵焼き、そして食べ心地も消化にも優しい寝かせ玄米のおにぎり。

 

これらの食材は、ほぼすべてが自家製です。
作られて来た過程をすべて知っているからこそ、彼らは食卓を囲む際に全員で自然の恵みに対する感謝を声に出して唱えます。

手間を惜しまずにかけられた料理はどれも本当に美味しく、いつもちょっと泣きそうになるほどです。

 

 

台所の棚には、梅干し、梅ジャム、酵素ジュースにゆかり、ケチャップにバジルペーストなどの保存瓶の数々が、所狭しと並びます。

忙しい中でも保存食作りもマメにこなし、新作の研究にも余念がありません。

 

 

病がくれたgift

 

そんな健康的な暮らしをしている河内山家ですが、ここまで家族一丸となったのは、実は今年の始めにおこった大きなできごとがきっかけでした。

 

可奈さんが配達中に倒れ、そのまま入院してしまったのです。

 

信じがたいことですが、可奈さんは入植して以来約30年もの間、出産以外で病院に行ったことがなかったのだそう。

いつでも太陽の様に明るくて、誰よりも働き者の可奈さん。

病気に一度もなっていなかった訳ではないと思うのです。つまりは、忍耐強くて、がんばり屋さんなのだと思います。実際の彼女を知る人は、みなさん分かっていると思いますが。

 

その一件以降、療養生活に入った可奈さん。

それまで担ってきた仕事の大部分は彼女の手から離れていきました。

そして、結婚して以来初めてとも言える自分を見つめ、自分優先の時間を持てるようになりました。

最初は慣れないゆとりの時間に戸惑い気味だったようですが、今は農園でできる玄米粉や小麦の全粒粉をつかった料理やお菓子づくりに力を注いでいます。

 

 

写真は米粉で作ったパンケーキ。自家製の桑の実ジャムや梅ジャムをのせて。

 

自分たちにとって大切なことは何か。

どうやって食べたらより自分や家族、みんなの体のためになるか。

一つひとつ見つめ直し、いつのまにか形づくられてきた習慣や関係性を修正することができたのです。

それは、ひとえに家族ひとりひとりの可奈さんへの愛情や今までの感謝あってこそだと思います。シャイな男性陣が本気を出したのです。

 

病を経験しなければ得られなかった時間や新たな繋がりを、家族のみんなが実感しているようです。

 

これからのこと

 

「農場は全部好き。原野から入った愛着と、形作ってきた自信がある。そして、至る所に耕さんがいる。息子たちも」。

そう笑顔で話す可奈さんの表情は、遥か遠くをみつめ、時間の流れを慈しんでいるよう。

私自身が今回の訪問で一番印象に残った言葉です。積み重ねた人だけが見える景色があるのだと思います。

 

可奈さんが19歳という若さで農場の開拓に入り、高校の英語の教師だった耕さんは職を辞め、相当な覚悟で二人はその地を踏んだことでしょう。その物語の全てはここで語り尽くせません。

ただ彼らが来ていなければ見れなかった場があり、仲間が居て、この台所から生まれてきた可奈さんの食にまつわるものがたりがあります。

 

是非、彼らが今後はじめるキャンプ場構想の準備が整ったら、門を叩いてみてください。
ハンモックに身を委ね、焚火を囲んで、ゆっくり耳を傾けてください。
今回は触れられなかった関西独立リーグで頑張る長男・拓樹君のことも。

 

 

今日も変わらず可奈さんは台所に立ちます。薪に火をつけることから始まる暮らし。
いつまでも眺めていたい光景です。

 

そんな気持ちが通じたのか、この度、河内山一家の日々の暮らしを綴るinstagramがスタートしました。
アカウント名は@satoyama_tamboです。

 

綴っているのは、今回ご紹介した可奈さん。

まるで離れたところに住む友人に宛てたような、そんな温もりある文章と里山の移ろいゆく自然、そして一家の暮らしぶりが垣間みれます。

 

最後に河内山家の日々の元気を根元から支える、とっておきのレシピを紹介します。

 

『寝かせ玄米レシピ』

  • 玄米をさっと洗う。
  • 塩を少々加えて混ぜる
  • 小豆をぱらりと上ののせる。
  • 炊く。
  • 炊きあがったらかき混ぜて保温。
  • 1日1回かき混ぜる。
  • 2日目から食べ始められ、1週間は食べ続けられます。
  • 炊飯器の普通モードで炊いて作るとあっさりめに、圧力鍋で炊いて炊飯器の保温で作るとモチモチにできます。
  • お米の品種、水加減で食感は変わるので、少なめで試しながらお好みの状態を愉しみつつ見つけてください。
  • 河内山家の場合・・・ひとめぼれの玄米6号で水は白米の7.5合分。圧力鍋で圧力がかかったら10分。圧が抜けたら20分置いて保温ジャーへ。これが河内山家の一番のお気に入りとのこと。

 

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